肺がんの放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬

肺がんの放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬

投稿者:放射線治療部 清水口 卓也

1.肺がんのステージと治療方針の概要

肺癌は診断時のステージごとに治療法が変わります。概要は以下の通りです(あくまでも概要で、異なる治療方針をとる施設もあります。)*本稿では肺がんの90%近くを占める「非小細胞肺癌」を解説します。

病期
(ステージ)
状態 主に選択される治療
数字は優先される順を表す
I期 腫瘍が片肺にとどまり転移していない 1.手術
2.放射線治療(定位照射)
II期 腫瘍が肺門リンパ節(肺の入り口のリンパ節)に転移している 1.手術+化学療法
2.放射線治療+化学療法
III期 腫瘍が縦郭リンパ節(左右の肺の間にあるリンパ節)に転移している 放射線治療+化学療法+免疫チェックポイント阻害薬
または、手術、化学療法、放射線治療の組み合わせ
IV期(再発も含む) ほかの臓器に転移が認められる肺癌が治療後再発し局所治療が適さない 免疫チェックポイント阻害薬、化学療法、分子標的薬などの全身療法の組み合わせ

2.免疫チェックポイント阻害薬による肺がんの治療の革新

免疫チェックポイント阻害薬という種類の薬をご存じでしょうか。患者さんご自身がもつ免疫のブレーキを外して、腫瘍に対する免疫応答を利用してがんの治療を行う薬です。肺がんの領域ではニボルマブ(オプジーボ®)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)、アテゾリズマブ(テセントリク®)、デュルバルマブ(イミフィンジ®)などの薬が用いられています。
免疫チェックポイント阻害薬の登場以降、肺癌の治療に大幅な進歩があったといっても大げさでないほど、成績の改善を示す新しいデータが次々と登場しました。年次をおって解説します。

2015年にニボルマブ(商品名:オプジーボ)が、遠隔転移をしていて(IV期)、他に効果が高い治療がない肺癌患者さんにおいて、従来の標準治療のドセタキセルよりも生存期間を延ばすことが実証され、保険適応になりました。当時報道でよく取り上げられたのでご記憶の方も多いかと思います。

2017年にはペンブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が、同じくIV期の遠隔転移を有する患者さんに対して従来の標準治療のプラチナ多剤併用抗がん剤治療よりも効果が高いことがわかりました。免疫チェックポイント阻害薬が、遠隔転移を有する患者さんにまず使用を検討する薬剤のひとつとなりました。

2018年にはIII期の肺がんの治療が変わりました。従来、1990年ごろから抗がん剤と放射線治療を同時に行う「化学放射線療法」が標準治療でした。根治を目指して強い治療を行うのですが、残念ながら治療成績は不良で、多くの患者さんのがんが再発してしまっていました。その状況を打開して治療成績を向上するため、放射線の線量を増やしたり、薬の組み合わせを変えたりして、20年もの間、様々な国の研究者が治療開発に挑んできました。ところが、試みはことごとく失敗し、治療成績は改善しませんでした。
しかし免疫チェックポイント阻害薬の登場によりこの状況が打開されました。この年、デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)という免疫チェックポイント阻害薬を追加することで治療成績が改善することが実証され、ようやく標準治療が変わることになりました。

さらに同じ年、IV期の遠隔転移がある肺癌患者さんで、特定の分子標的薬が有効でない方を対象に、従来のプラチナ製剤を中心とした治療に加えてペムブロリズマブが成績を改善するかが評価されました。その結果、従来の抗がん剤治療のみを受けた患者さんに比べて、ペムブロリズマブを併用した患者さんの方が長生きすることが示されました。そのため、この試験の対象となるような集団では、従来の抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を併用することが標準治療になりました。

このように肺がんの患者さんのうちかなりの割合の方が経過中に免疫チェックポイント阻害薬を使用する時代になっています。

3.放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬の相性について

放射線治療と、免疫チェックポイント阻害薬の両者を併用することで治療の効果が高まるのではないかと期待されています。少し難しい話ですが、背景には基礎研究で放射線治療をすると免疫チェックポイント阻害薬のターゲットになる分子の発現が増えるという報告があります。実際、放射線治療を受けたあとの患者さんの方が、そうでない人より、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高かったという報告があります。

両者を併用することで副作用が増強する可能性があり、まだまだ狙ったように相乗効果を起こせるわけではないので難しいところはあります。まだ一般に広く行える段階ではありませんが、その成果を多くの肺がん患者さんが受けられるようにと、次節で紹介するような治療開発が盛んにおこなわれている研究分野のひとつです。

4.治療開発、駒込病院で行われる治験

肺癌に対する治療は日々進歩しています。駒込病院では、現在一番良いと考えられている治療をさらに上回ることを期待して臨床試験[a]や治験[b]が行われています。免疫チェックポイント療法も薬として使われるようになるまでに治験が行われ、従来の治療よりも良い成績であった事から国の承認を得て広く使われる様になりました。
最近では、薬同士の組み合わせだけではなく、放射線との組み合わせや手術との組み合わせにより、より良い治療を目指し臨床試験や治験が行われています。

[a] 新しい薬や治療法の効果や安全性を科学的に調べる方法です。
[b] 「くすりの候補」を用いて国の承認を得るための成績を集める臨床試験です。

5.まとめ

ご覧いただいたように免疫チェックポイント阻害薬の登場で、肺がんの治療開発は最近数年間で大きく進歩しました。患者さんと担当の医師と適切なコミュニケーションを持ち、ステージや体力などの状態に応じ適切な治療を受けることにより、多くの患者さんが治療の進歩の恩恵を受けられるようになることを願っています。


執筆者紹介

清水口 卓也(しみずぐち たくや)

こまごめコラム執筆者
がん・感染症センター都立駒込病院 放射線診療科(治療部)医員
富山大学(2009年卒)
専門分野:放射線腫瘍学(婦人科がん、乳がん、肝がん、悪性リンパ腫)
資格:日本医学放射線学会放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医、第1種放射線取扱主任者
駒込病院 放射線診療科(治療部)ページ

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