放射線診療科(治療部)

前立腺がんFAQ

目次

診断、治療の選択篇

前立腺がんの治療成績を教えてください?

日本国内では78,000人が前立腺癌と診断されたのに対して、前立腺癌で亡くなった方は10,000人程度と、罹患数(前立腺がんと診断された人の数)に比べて非常に少なく、経過が緩徐で死亡率の低い癌種の1つと考えられます。
ひとくちに前立腺がんといっても診断時の年齢や、ステージ、選択される方針によって見通しが異なるので、一概に治療成績を示せるものではありません。ご自身の治療方針は担当の医師から説明を聞いて決定されるべきものですが、後述のリスク分類、放射線治療の治療成績も参考としてご参照ください。

前立腺がんの診断はどのように行われますか?

前立腺がんは多くの人は自治体や職場の前立腺がん検診がきっかけで発見されます。検診で異常(PSA高値)を指摘されると、泌尿器科の受診を勧められます。
泌尿器科を受診すると、PSAの数値によって、経過観察を選択される場合もあるほか、年齢や血液検査の結果によっては、がんがあるかを調べるためにMRI検査や前立腺生検を行います。
生検では前立腺に針を刺して組織を採集します。 肛門から直腸に超音波のプローブを入れ、前立腺を見ながら針で前立腺を穿刺します。当院では1泊2日の入院の下、局所麻酔をして検査をします。
採取した病変は病理診断部門に提出され、顕微鏡で検査をします。病理診断でその中にがん細胞がふくまれていると判定された場合にはじめて「前立腺がん」の診断となります。
生検で前立腺がんと診断された場合は、ほかに、骨シンチグラフィー、CT検査などを行い、病気の進展具合を判定するのが一般的です、転移のリスクが低いと判断される場合は検査が一部省略されることもあります。

検査 画像
MRI検査
前立腺の内部の様子を主に検査します。
CT検査
リンパ節や、他の臓器に転移がないかを検査します。
骨シンチグラフィー
骨に転移がないかを評価します。

前立腺がんの画像所見

前立腺がんの形態の把握や病変の範囲の推定にはMRI検査が有用とされます。
やや専門的ですが、T2強調画像で低信号(左図)、拡散強調画像で高信号(右図)を示す部分が腫瘍の所見とされています。
 

造影T1強調画像では早期濃染領域として描出され、造影後期ではWash-outされるとされています。
しばしば診察で、(画像をみて)前立腺がんはどの部分ですか?私のがんは小さくなりましたか?
などという質問をいただきますが、MRIをはじめとする現在の画像検査では、がんの進展範囲が手に取るようにわかるという段階ではありません。手術で実際に切除して調べてみると、画像で予想していた所見と異なるということもあり、がんが大きい、小さくなった、などとは表現できないことが多いです。
これらのことから、放射線治療では前立腺のがんがあるところのみに放射線治療を行うというよりは、前立腺の全体に治療を行うのが一般的です。
PSAが高くて、生検でがんが検出されても、画像でも、触診でも腫瘍の所在が分からないことがあります。そのような状態T1cの進展度と特別に定義されています。

参考:前立腺がんTステージ

Tステージ 解説
T1 がんが臨床的に検出されない
T1a 前立腺肥大症の手術などで切除検体から偶然がんが検出され、がんの割合が全体の5%以下であるもの
T1b 上記で、がんの割合が全体の5%超であるもの
T1c 針生検によってがんが確認される
T2 がんが前立腺に限局している
T2a 前立腺の片葉にとどまり、その1/2以下のもの
T2b 前立腺の片様にとどまり、その1/2以上のもの
T2c 前立腺の両葉にがんが指摘されるもの
T3 がんが前立腺の外に進展している
T3a 前立腺の被膜を超えて進展するもの
T3b 精嚢に浸潤するもの
T4 がんが前立腺の周囲の臓器に浸潤している
   膀胱や直腸に浸潤するもの

AJCC TNM 第7版より

PSAとは何ですか?

PSAはprostate specific antigen(前立腺特異抗原)の略で、実態は正常の前立腺でも産生されるたんぱく質(糖蛋白)です。
そのため、血液中のPSAが高いだけでは前立腺がんと決まったわけではありません。前立腺炎、前立腺肥大、前立腺の触診などでもPSAの値が上昇します。PSAが4.0ng/mlを超えると次第に実際に前立腺がんと診断される方の割合は増えます。

当院でのPSA値と、生検により前立腺がんと診断される人の割合の関係
(当院で2013年から2016年にMRI施行後前立腺針生検を受けた238例の結果)

PSA値(ng/ml) 生検で実際にがんが検出される割合
4> 58%
4-10 54%
10< 73%

一般にはPSAが4を超えると異常値とされますが、当院では、それ以下の方も年齢やその他の所見によって生検を行うことがあります。事前にMRIで評価を行い、対象者を慎重に判断しているため一般に示されるデータよりも高い割合となっています。
また、PSAは前立腺がんの状態とよく相関するため、前立腺がんのスクリーニングに用いられたり、治療効果、再発の判定に用いられたりします。治療効果については後述の治療の効果と判定をご覧ください。

グリソンスコアとは何ですか?

生検で採取した前立腺組織にがんが検出された場合、世界共通の尺度としてその悪性度をスコア化し病状の評価に用います。顕微鏡で観察して1番多い成分と、2番目に多い成分をそれぞれ1-5点で評価し、合計します。
例:3+4=7 5+4=9 など。
成分の多寡も考慮されるので、4+3=7と、3+4=7は合計点では同じですが、区別されます。
合計が5点以下となることはあまりないため、多くの方が6-10点の間に分類されます。

リスク分類とは何ですか?

世界的にD’Amicoの分類とNCCNの分類がよく用いられます。
両者とも類似しています、ここでは当院で使用しているNCCNのリスク分類を紹介いたします。

PSA値
(ng/ml)
グリソンスコア
(Gleason score: GS)
T因子
(腫瘍の広がり)
低リスク 10未満 6以下 T1a-T2a (腫瘍がわからないか、限局している)
中リスク 10-20 7 T2b-c (腫瘍が前立腺内に広がっている)
高リスク 20以上 8超 T3-4 (腫瘍が前立腺の外に広がっている)

複数にまたがる場合は高い方のリスクに分類されます
リスク分類はさまざまな治療法の成績の比較に用いられています。低リスクでは一貫して治療成績が良好とされています。

治療法で迷っています。どれを選ぶのが良いでしょうか?

根治的治療の代表として手術と、放射線治療(外照射)についてメリット、デメリットを示します

利点 注意点 主な副作用
放射線治療
(外照射)
痛みがない
通院で治療ができる
治療期間が長い
ホルモン剤を併用することがある
再発後に手術をするのは困難
頻尿
直腸出血
男性機能障害
手術 長期の病状のコントロールが期待できる
病理診断で病変の状態を調べられる
入院が必要
手術の結果により放射線治療の追加をする(必要になる)ことがある
尿失禁
男性機能障害
 
参考
待機療法 治療をしなくても生涯問題にならない前立腺がんであれば、無用な治療が避けられる 根治可能ながんが経過観察中に進行してしまう恐れがある なし

副作用の程度、頻度の部分は技術の進歩もあり、表にあげたようには単純には説明できないところもあります。専門の医師からよく話を聞いてください。

放射線治療篇

前立腺がんの放射線治療のページとあわせてご覧ください。

副作用にはどのようなものがありますか?

代表的な副作用について当科で普段行っている説明、対処法の例と合わせて解説いたします

副作用 解説、対処法
治療中に出現する症状(急性期の副作用)
頻尿 膀胱の粘膜が刺激されることによって、治療の途中から尿意が強まり排尿の間隔が短くなることがあります。
ほとんど症状が現れないことから、1時間おきにトイレに行くようになるほどまで程度は様々ですが、もっとも頻度が高い副作用です。
頻尿改善薬を使用することがあります。
排尿時痛 尿道の炎症が原因で、排尿時にひりひりするような症状が出ることがあります。重篤な症状になることはまれです。
軽度であれば経過観察、必要時は鎮痛薬の使用などで対処します。
治療終了後しばらくして起きる症状(晩期の副作用)
直腸出血 放射線治療後に血便が出るときは大腸内視鏡で確認し、出血の原因を確認します。
程度によって出血を止めるため、レーザー治療(APC;アルゴンプラズマ凝固法)を行うことがあります。
終了後1-3年の間によくみられる副作用です。
膀胱出血 血尿が続く場合は膀胱鏡検査などを行い、出血の原因を評価します。
膀胱出血が確認された場合の治療法は確立していませんが、持続的でコントロール困難なほどの出血の頻度は高くありません。
血液がたまって尿が出なくなってしまう場合(膀胱タンポナーデ)は、すぐに救急外来を受診していただき尿を排出する処置を行う必要があります。

IMRT(強度変調放射線治療)とは何ですか?

国内でも多くの施設がIMRTで治療を行うようになっています。
従来の方法(3DCRT)よりも腸の線量を下げて治療を行うように工夫されています。
イメージはこちらのページをご参照ください。

トモセラピーがよいと聞きました?成績に違いはありますか?

*当院ではトモセラピーという治療機器を使用しており、同機器を用いた治療について多くのお問い合わせをいただくなど注目をいただいています。当院におけるトモセラピーを用いた治療の適応に関しては、トモセラピーFAQのページもあわせてご覧ください。
前立腺がんの治療においては現在のところトモセラピーを使用したことによる治療効果の改善は報告されていませんが、こちらでご紹介している通りトモセラピーには、IMRTと、IGRTの技術が備わっており、それぞれの技術を用いることで前立腺に集中して放射線治療が行われることにより、副作用が軽減され副作用の頻度が低くなると期待されています。当院では前立腺がんの放射線治療にはVeroという治療機器も並行して使用しています。こちらも同等のIMRT、IGRTの機能が備わっており高精度治療を提供しています。基本的には両者の間に治療成績で差はないと考えています。

放射線治療はどのぐらいの量を照射しますか?

当院ではすべてのリスク分類で76Gy(グレイ)という放射線治療の量を、38回に分けて照射します。これは従来の60Gy台で治療を行っていたのと比較して、70Gy台の治療が上回るという臨床試験の結果を反映してのものです。日本のガイドラインでは70Gy以上、欧米の治療のガイドラインでは74-80Gy程度が推奨される線量とされています。そのような背景から当院では76Gyを採用しています。
放射線治療を受ける場合はご自身が受ける線量にも注目してみてください。詳しくは担当の医師に確認してみるとよいでしょう。

治療中飲酒や喫煙は続けてよいですか?

治療中の飲酒の継続はお勧めしていません。治療中、治療終了後早期は前立腺の浮腫が起こり、尿閉(尿の流出経路が閉塞して出なくなる)などの問題が生じる可能性があるためです。治療後は症状が落ち着いていれば担当スタッフと相談のうえ、飲酒を再開してもかまいませんと説明しています。
喫煙はがん患者さんの間でも様々な面から健康状態に悪影響を及ぼすことが指摘されています。放射線治療の分野でも治療中、治療後の粘膜障害を助長するという報告もあることから、当科では放射線治療実施中から、治療終了後も喫煙の再開はお勧めしていません。
Rugg T Smoking and mucosal reactions to radiotherapy. Br J Radiol. 1990 Jul;63(751):554-6.

仕事をしながら治療できますか?

実際に仕事をしながら前立腺がんの治療を行っている方は多くいらっしゃいます。
平日は毎日、週に5日間行います。放射線生物学の視点からは毎日治療を行うことが大切ですので、できるだけ日程を調整してください。
当院で治療を行う場合は時間の相談をしてできるだけ仕事が続けられるようにしたいと考えていますが、たとえば午前9時ちょうどがご希望など、特定の時間の指定は難しいことが多いです。

治療期間はどれぐらいですか?

月曜日から金曜日までの平日に毎日治療を行います。期間は治療の回数によりますが、駒込病院では76Gyを38回で治療を行っています。治療期間はおよそ8週間です。
近年では治療が早く終わるように70Gyを28回で治療を行う(小分割照射:1回あたりの治療の量が多いので、総線量は少ない)方法が検証されています。国内でも臨床試験が2013年までに行われ当院も参加しており、治療成績が待たれています。副作用が問題なく、治療効果が良好であれば日本でも一般的な治療スケジュールとなる可能性があります。

ホルモン剤を併用すると聞きました、どうしてですか?

中-高リスク前立腺がんでは放射線治療にホルモン剤を併用することで、治療成績が向上することが多くの臨床試験で示されてきました。高線量の放射線治療におけるホルモン併用の意義は確立されていないといわれ、ガイドラインでも明確な推奨はされておりませんでしたが、最近になって高線量の放射線治療下での臨床試験の成績が公表され、70Gyを超える線量でもホルモン療法併用で治療成績が改善することが示されています。
これらのことから当院では、低リスクでは併用無し、中リスクでは6か月、高リスクでは2-3年間の併用という方針をとっています。

ホルモン剤使用の例 (当院では、中リスクでは6か月、高リスクでは2-3年間併用します)

  • ビカルタミド(先発薬:カソデックス)80mg 1日1回1錠

に加えて

  • リュープロラミド(先発薬:リュープリン) 11.25mg 3か月に1回注射(皮下注)
  • ゴセレリン(先発薬:ゾラデックス) 10.8mg 3か月に1回注射(皮下注)
  • デガレリクス(先発薬:ゴナックス) 80mg 1か月に1回注射(皮下注、初回240mg)

のいずれかを組み合わせて治療を行います。

治療の効果はどのように評価しますか?

当院では放射線治療が終わった後3-6か月程度の間隔でPSAの値を測定し、もっとも下がった時点から2.00以上上昇した場合、生化学的再発と判定します。Phoenixの基準といわれ、現在では最も一般的に使用されるものです。また、ホルモン療法を併用している場合はその影響でほとんどの場合数値が下がるので、治療の効果がわかるのはホルモン療法終了後です。
PSAが上昇して生化学的再発の基準を満たしたとしても、一過性の上昇であることもあります。とくに放射線治療後、3年以内のうちに一時的にPSAが上昇することがあり、PSAバウンスとよばれます。それを再発と判定してしまうと長い間ホルモン療法等を継続することになりますので、当院では慎重な判断を心掛けています。
生化学的再発に対して、骨の転移や、前立腺の局所の再発を生じることもあります。これは臨床的再発と呼ばれ、多くの場合、判明次第ホルモン療法などを行うことになります。

放射線治療の成績を教えてください。

最近成績が公表されたヨーロッパの臨床試験の成績を紹介します。
中-高リスクの患者さんを対象に6か月間のホルモン療法と70-78Gyの放射線治療を併用して行った試験です。
高線量の放射線治療と、ホルモン剤を併用したグループでの5年後の生化学的無再発生存率(前述:PSAの値が治療なしでも低値を維持している方の割合)は84%、7年で73%程度です。
Short Androgen Suppression and Radiation Dose Escalation for Intermediate- and High-Risk Localized Prostate Cancer: Results of EORTC Trial 22991. J Clin Oncol. 2016 May 20;34(15):1748-56.
残念ながら再発してしまう患者さんも、必ずしもすぐに症状が現れるわけではなく元気に過ごされている方が多いです。再発後はホルモン療法などを行います。

粒子線治療(重粒子線、陽子線)とX線のIMRTではどちらの治療効果が高いですか?

治療成績の差異は報告されていません。粒子線治療が始まって20年以上が経過していますが、現時点でX線治療よりも陽子線や重粒子線治療が治療成績で勝るという強いデータはありません。ガイドラインや、米国放射線治療学会での推奨でも外照射の場合はX線による治療(IMRTを含む)が標準的な治療とされ、粒子線治療はまだ研究段階で、一般に広く行われるにはデータは揃っていないとされています。

放射線治療を受けるにはどうすればよいですか?

これまでに解説した通り、手術、放射線治療、その他の方法などの治療法を、病状、年齢、体力などの要素と、患者さんのご希望を踏まえて、主治医の先生と相談のうえ決定するのが一般的です。先進的な施設では診断から、治療までを泌尿器科医、放射線腫瘍医などが共同で前立腺がんの診療を行う(ユニット外来などと呼ばれる)こともあります。現実にはすべての施設に放射線治療の設備があるわけではありませんので、放射線治療を専門とする医師の診察は、希望した方のみということもしばしばです。
治療方針の決定の前にセカンドオピニオン外来を受診される方も増えています。治療を受ける前に病状や、治療の内容についてよく納得することが重要です。

費用はどれぐらいかかりますか?

当院で行っている放射線治療は保険診療です。
前立腺がんの放射線治療の診療報酬は治療1回あたり3万円程度ですが、健康保険が適応され、自己負担割合(1-3割)に応じて窓口でお支払いいただきます。多くの方では高額療養費制度が適応され所得に応じた1か月間の上限金額が設定されています(70歳未満で中位では約80,000円など)。制度の適応に関しては保険証を発行している保険者や受診時に窓口で確認してください。

参考:
前立腺がん治療ガイドライン2012 桐原書店
NCCNガイドライン
NCI PDQ

2016年11月更新
放射線治療部 清水口卓也

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